読書感想

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』(創元推理文庫)

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校1年生。きょうも2人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、2人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に駆られてし…

ヨハン・テオリン『冬の灯台が語るとき』(ハヤカワポケットミステリ)

スウェーデンのエーランド島に移住し、双子の灯台を望む「ウナギ岬」の屋敷に住みはじめたヨアキムと妻、そして二人の子供。しかし間もなく、一家に不幸が訪れる。悲嘆に沈むヨアキムに、屋敷に起きる異変が追い打ちをかける。無人の部屋で聞こえるささやき…

市川染五郎『染五郎の超訳的歌舞伎』(小学館)

歌舞伎舞台は役者次第! 同じ演目でも役者によって見せ方が違うのも、また歌舞伎の魅力です。その役者が舞台の息づかいそのままに歌舞伎の魅力を舞台の内側から書き下ろしました。 “あまのじゃく”と“ひねくれ”がほんの少し入った、妄想好きな染五郎厳選の25…

牧野修『傀儡后』(ハヤカワJA文庫)

二十年前の破滅的な隕石落下により、大阪は異形の街と化した。落下地点付近の危険指定地帯を中心に、謎のドラッグや奇病をめぐり、人類社会崩壊の予兆のなか、変容してゆく人の意識と世界が、醜悪かつ美麗に描かれる。(早川書房:http://www.hayakawa-online…

中野信『模倣の殺意』(創元推理文庫)

7月7日午後7時、服毒死を遂げた新進作家、坂井正夫。その死は自殺として処理されるが、親しかった編集者の中田秋子は、彼の部屋で行きあわせた女性の存在が気になり、独自に調査を始める。一方、ルポライターの津久見伸助は、坂井の死を記事にするよう雑誌社…

ヨハン・テオリン『黄昏に眠る秋』(ハヤカワHM文庫)

霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母のユリアとともに、ふたた…

ガイ・バート『穴』(BOOK PLUS)

イギリスの田舎にある全寮制私立学校。5人の生徒が学校の片隅にある地下室に閉じこもった…。(「MARC」データベースより) 途中まで拙い小説というか文章だな、これが『ソフィー』(創元推理文庫)の作家?と思いながら読んでいたらそれも技巧の一環でした。確…

アン・クリーヴス『青雷の光る秋』(東京創元社)

ペレス警部は婚約者のフランを両親に紹介するべく、ふたりで故郷のフェア島を訪れていた。だが、島のフィールドセンターでひらかれた婚約祝いパーティの直後、センターの職員アンジェラが殺される。折からの嵐でシェトランド本島との交通が途絶したため、単…

ミネット・ウォルターズ『遮断地区』(創元推理文庫)

バシンデール団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で十歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が襲いか…

ジョージ・R・R・マーティン『星の光、いまは遠く』上下(ハヤカワSF文庫)

あまりに遠大な公転軌道を有するため、あたかも銀河を彷徨っているかに見える辺境惑星ワーローンに、ひとりの男が降り立った。ダーク・トラリアンは、かつての恋人グウェン・デルヴァノから送られた〈囁きの宝石〉に呼ばれ、この惑星にやって来たのだった。…

ジョナサン・キャロル『炎の眠り』

ぼくは呆然としていた。目の前に、30数年前に死んだ男の墓がある。そこに彫られた男の肖像が、なんとぼくそのものだったのだ! そのとき見知らぬ老婆が声をかけてきた。「ここにたどり着くまで、ずいぶん長いことかかったね」捨て児だったぼくは、両親の顔す…

中村融編:ジャック・フィニイ、ロバート・F・ヤング、他『ロマンティック時間SF傑作選 時の娘』(創元SF文庫)

時という、越えることのできない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現れて一世紀以上が過ぎた。時間SFはことのほかロマンスと相性がよく傑作秀作が数多く生まれている。本集にはこのジャンルの定番作家といえるフィニ…

戸板康二『團十郎切腹事件』(講談社文庫)

謎を残す八代目團十郎の死を名探偵老優雅楽が卓抜な着想で推理する直木賞の表題作の他、『車引殺人事件』『奈落殺人事件』など、花道と奈落の明暗に生きる役者の世界に材を取る七編。(講談社文庫あらすじより) 古本での読書。講談社版は絶版ですが現在は東京…

マイケル・コナリー『チェイシング・リリー』(ハヤカワHM文庫)

「リリーはいるか?」引っ越してきたばかりのピアスのもとに、間違い電話が次々にかかってきた。ナノテク学者でベンチャー企業の代表も務めるピアスが興味を覚えて調べてみると、リリーはネット上に広告を出している評判のエスコート嬢だった。その彼女が失…

アン・ペリー『護りと裏切り』上下(創元推理文庫)

看護婦のヘスターは、友人のイーディスの兄であるカーライアン将軍が置物の甲冑(かっちゅう)の鉾槍(ほこやり)に胸を突かれて死亡したと知らされる。当初は事故だと思っていたが、妻のアレクサンドラが夫殺しで逮捕される。義姉の犯行を信じられないイー…

デイヴィッド・ムーディ『憎鬼』(RHブックス+プラス)

しがない公務員のダニーは通勤途上、ビジネスマン風の男が老女に襲いかかり容赦なく殴打する場面に遭遇した。その後街では平凡な市民が突然凶暴化し、見ず知らずの他人を、友人を、家族を襲う事件が頻発する。メディアは彼らを“憎鬼”と名付けた。死者は増え…

イモジェン・ロバートスン『闇のしもべ』上下(創元推理文庫)

1780年、ウエスト・サセックスの爽やかな朝。解剖学者クラウザーを、隣家の提督夫人ハリエットが訪ねてきた。自らの地所で、咽喉を斬られた男の死体を発見したという。その被害者が所持していた指輪の紋章は、この国で最高の格式を誇るソーンリー家のもので…

G・M・マリエット『コージー作家の秘密の原稿』(創元推理文庫)

裕福で年老いた大人気コージー作家のエイドリアンが、子どもたちに結婚式の招待状を送りつけてきた。この結婚でまた遺言書が変わるのかと当惑する子どもたち。屋敷に集まった彼らに父親が予想外の事実を告げた翌朝、相続人候補がひとり減ることに。だれもが…

神林長平『ぼくらは都市を愛してた』(朝日新聞出版社)

世界中で頻発する「情報震」。原因は不明。デジタルデータが壊滅し、無人と化す大都市。偵察のため、トウキョウに入った日本情報軍中尉は、思わぬ「敵」と遭遇する……。(朝日新聞出版社:http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13971) 神林長平…

トム・フランクリン『ねじれた文字、ねじれた路』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ホラー小説を愛する内気なラリーと、野球好きで大人びたサイラス。1970年代末の米南部でふたりの少年が育んだ友情は、あるきっかけで無残に崩れ去る。それから25年後。自動車整備士となったラリーは、少女失踪事件に関与したのではないかと周囲に疑われなが…

米澤穂信『折れた竜骨』(東京創元社ミステリ・フロンティア)

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手で…

ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(新潮クレスト・ブックス)

心優しいオタク青年オスカーの最大の悩みは、女の子にまったくモテないこと。どうやら彼の恋の行く手を阻んでいるのは、かつて祖父や母を苦しめたのと同じ、ドミニカの呪いらしい――。(新潮社:http://www.shinchosha.co.jp/book/590089/) SF、ファンタジィー…

キャサリン・フィッシャー『インカースロン 〜囚われの魔窟』(原書房)

インカースロンと呼ばれる巨大監獄で過ごす主人公フィン。 ある日、監獄の管理人の娘クローディアと知りあい、監獄から脱出する計画をひそかに立て実行するが……。(原書房:http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=1&isbn=04683-6) 自我を持つ地下迷…

米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』(新潮文庫)

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語…

P・D・ジェイムズ『高慢と偏見、そして殺人』(ハヤカワポケットミステリ)

紆余曲折の末にエリザベスとダーシーが結婚してから六年。二人が住むペンバリー館では平和な日々が続いていた。だが嵐の夜、一台の馬車が森から屋敷へ向けて暴走してきた。馬車に乗っていたエリザベスの妹リディアは、半狂乱で助けを求める。家人が森へ駆け…

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』上下(ちくま文庫)

元気はつらつとした知性をもつエリザベス・ベネットは、大地主で美男子で頭脳抜群のダーシーと知り合うが、その高慢な態度に反感を抱き、やがて美貌の将校ウィッカムに惹かれ、ダーシーへの中傷を信じてしまう。ところが…。(筑摩書房:http://www.chikumasho…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ『ディミター』(創元推理文庫)

1973年、宗教弾圧と鎖国政策下の無神国家アルバニアで、正体不明の人物が勾留された。男は苛烈な拷問に屈することなく、驚くべき能力で官憲を出し抜き行方を晦ました。翌年、聖地エルサレムの医師メイヨーと警官メラルの周辺で、不審な事件や〈奇跡〉が続け…

米澤穂信『インシテミル』(文春文庫)

「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給11万2000円がもらえるという破格の仕事に応募した12人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだっ…

伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワJA文庫)

9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。 米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポー…

スティーブン・キング『キャリー』(新潮文庫)

狂信的な母親から精神的圧力を掛けられながら育ったキャリーは変わり者としてハイスクールでもいじめられる存在。自分に自信がないキャリーだがテレキネス能力を持つことを自覚し自我が芽生え始める。そしてその彼女の向けられた悪意や善意という名の無自覚…