デボラ・クロンビー『警視の偽装』(講談社文庫)

ロンドンの有名オークションハウスに出品された、見事なジュエリー。それは、エリカの父の形見だった。エリカは機知の女性警部ジェマ・ジェイムズに相談をする。その聞き込み取材の直後、オークションに関係した若い女性が轢死した。
(講談社http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062774062)

キンケイドシリーズ12巻目。久しぶりに読みましたがシリーズのなかでも秀逸な作品のひとつ。今回はシリーズに何度か顔を出しているドイツ生まれのユダヤ人、エリカが主人公。盗まれたはずのエリカの父の形見のジュエリーがオークションに出品されていることを知ったエリカはジュマに相談を持ちかける。ナチス時代にイギリスに逃亡してきたエリカの過去がこの作品で語られていきます。とてもやるせない読後感でした。人間の汚さを凝縮させたような犯人像にはぞっとしました。エリカの旦那も可哀想だよね。

このシリーズは毎回、主人公周辺の生活描写がかなりしっかり描かれている作品でその部分を楽しむものだけではなく事件の描写もかなりしっかりしているので読んでいてバランスが良い作品です。社会問題に絡む部分から逃げない。そこを徹底的に追及するというわけではないんだけど「問題」を「問題」として捉える足掛かりとしての社会派ミステリとして読みやすいと思う。実はシリーズ途中、ラブロマンス方面が強くなって私好みじゃなくなるかも?という危惧を感じた巻もあるのだけど、すぐに挽回しました。バランス感覚がいい作家なのかもしれません。

このシリーズは好きでずっと追いかけているのですがコンスタントに出版されていて嬉しい。シリーズ初期作品は絶版になっているようで、それが残念。

警視の偽装 (講談社文庫)

警視の偽装 (講談社文庫)