アンドレアス・グルーバー『夏を殺す少女』(創元推理文庫)

酔った元小児科医がマンホールにはまり死亡。市議会議員がエアバッグの作動で運転をあやまり死亡。一見無関係な事件の奥に潜むただならぬ気配に、弁護士エヴェリーンは次第に深入りしていく。一方ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事、ふたりの軌跡が出会うとき、事件がその恐るべき真の姿を現し始める。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488160050)

オーストリアのミステリー小説。先へ先への興味を持続させるストーリーテイリングの巧さがあり一気に読んでしまいました。面白かったです。
この作品はオーストリア国内だけでは国境を越えてドイツも舞台にしています。ドイツ人の刑事ヴァルターが追う事件とオーストリアで大手の弁護士事務所で働く弁護士エヴェリーンが追う事件の二つの視点を中心に時々挟み込まれる謎の少女が起こす殺人事件の様子の三つの構成で描かれていく。ドイツでは精神病棟に入院している少年少女たちが殺されており、オーストリアではいわゆる名士と言われる男性たちが謎の死を遂げていく。まったく無関係であるかのような複雑な事件が繋がっていく。
刑事ヴァルターと弁護士エヴェリーンはそれぞれに過去を背負いあがいている二人。その人物背景が事件を追う原動力にもなりまた二人の再生への道筋にもなっていく。その過程がバランスよく描きこまれておりとても陰惨な事件の真相のなかで救いとなっているのが良いです。題材はこのところ欧米ミステリでは頻繁に取り上げられているもの。それだけ社会問題になっているのでしょうね…。この手の事件が無くなりますように。

夏を殺す少女 (創元推理文庫)

夏を殺す少女 (創元推理文庫)