ジョー・ウォルトン『バッキンガムの光芒 (ファージングIII) 』(創元推理文庫)

ソ連が消滅し、大戦がナチスの勝利に終わった1960年、ファシスト政治が定着したイギリス。イギリス版ゲシュタポ・監視隊の隊長カーマイケルに育てられたエルヴィラは、社交界デビューと大学進学に思いを馳せる日々を過ごしていた。しかし、そんな彼女の人生は、ファシストのパレードを見物に行ったことで大きく変わりはじめる……。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279073)

ファージングシリーズ完結編です。いかにもイギリスらしい結末での締め。これが良いか悪いかはわかりませんが、うまく纏めましたね〜と感心してしまいました。個人的には二作目が一番好きですが、この三作目がなければ救われないので、内容は重いものの終わりよければな爽やかさを感じました。
今回もカーマイケルともう一人の主人公の交互の語り。今回の女性パートの主人公は前作で亡くなったカーマイケルの同僚ロイストンの遺児、エルヴィラ。彼女はカーマイケルに守られ育ち、社交界デビューを目の前にしている18歳。自分の立場を自覚しつつも現状のイギリスの価値観のなか将来を夢見ている女の子です。エルヴィラの18歳らしい無邪気な行動から間違って逮捕され権力に飲み込まれていく過程で少しづつ価値観を変えていき、そのなかで前向きに進んでいこうとする様子が丁寧に描かれいきます。カーマイケルのほうはゲシュタポのような監視隊の隊長として活躍していますが芯の部分は変わっていません。今回は娘として愛するエルヴィラのために動かざるおえず追い込まれていきます。
いったい二人の運命はどうなっていくのか、イギリスはどういう運命に進んでいくのか、サスペンスフルに描かれていく。かなり重いテーマを扱っているし、丁寧に描いているとは思いつつも全体的にはライトな感覚。読みやすくはありますが、個人的はもう少し深い部分で描いて欲しかったかな。とはいえ、面白いことには違いありません。

バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)

バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)