ミネット・ウォルターズ『病める狐』上下(創元推理文庫)

これは傑作。私的にミネット・ウォルターズ作品のなかでもかなり好きです。作品の質としても上位にランクされる作品。ミステリの女王の名は伊達じゃありません。やっぱり凄い。いつものように題材に新味があるわけじゃないのに、構成の密さ、人物描写の濃密さで読ませる。それにしてもストーリー運びの巧みさたるや尋常じゃなく上手い。ミスディレクションの使い方が、ほんと上手いのよね。いったい何が起きてどうなっているのか、事件の全貌が見えてきそうでなかなか見えてこない。この引っ張り方が本当にお見事。サスペンスとしてかなり上質。


今回は登場人物たちが複眼的に描かれていくのだけど、描き分けが上手いのでかなりリーダビリティが高い物語になっています。そして、かなり様々な女性キャラが描かれているのですが、相変わらず下世話な女性たちの描き方の濃さったら、見事としかいいようがありません。ただ今回は主人公と言っていい女性のキャラが珍しく感情移入しやすくてかなりカッコイイです。この女性が重くて暗い物語に爽快感を与えています。ラストはちょっと甘いかなと思うけど、それまでがかなり緊迫感ある辛い話なので救いがあるのにホッとします。

病める狐〈上〉 (創元推理文庫)

病める狐〈上〉 (創元推理文庫)

病める狐〈下〉 (創元推理文庫)

病める狐〈下〉 (創元推理文庫)