ロイス・マクマスター・ビジョルド『メモリー』上下(創元SF文庫)

前作『ミラー・ダンス』から2年半ぶりの邦訳。待ちに待ったヴォルコシガン・シリーズです。で、やっぱり面白いです。長いシリーズものはどうしても惰性に陥りクオリティが落ちたりしますが、ヴォルコシガン・シリーズはほとんどそれが無いです。作品によって雰囲気をがらりと変化させることを厭わないのがビジョルドの作家としての力量でしょうね。それぞれのキャラクターに愛情を持ちつつも甘くなる一歩手前で押さえて描いているのがとても好き。人物像の長所と欠点のバランスが良いのが非常に魅力的なんです。


今回の作品はストーリー的にはバラヤーの帝国機密保安庁での事件が中心になりミステリSFといった趣です。ミステリとしてはかなり甘いですが(私は犯人が即効わかってしまいました)人間模様が細かく描かれかなり楽しかったです。この作品でマイルズの環境が一転します。絶えず自分の居場所を探してきたマイルズの決断。ネイスミス提督としての物語はここで区切りがつきます。マイルズのシリーズとしてはこの作品で終わらせていいくらいですね。今までの物語に印象深く登場してきたキャラクターたちが再登場し、それぞれの行く末が提示されていますし。ちょっと哀しい部分もありますが爽やかでもあります。