ヨハン・テオリン『赤く微笑む春』(ハヤカワポケットミステリ)

エーランド島石切場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルネル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るよう求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。
なぜこんな事件が起きたのか? 娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる――。(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211870.html)

エーランド島シリーズ第三作目。このシリーズ好きだわ〜。この作品も前二作と同様に過去と現在を交錯させていく手法で淡々とゆっくりと語られていく。季節は春だけれども暖かな兆しがあるのではなくどこか不安感をもたらす靄が漂う感じの作品です。
過去に苦しめられている男女二人を中心に家族というものが描かれていきます。一作目『黄昏に眠る秋』で亡くなった石工エルンストの親戚でそのコテージに引っ越してきた男性のペールは父ジェリーに過去も現在も振り回され、また娘の原因不明の病気への心配にも苦しんでいる。そしてエーランド島出身のヴァンデラは哀しい過去を背負っておりまた威圧的な旦那との折り合いが少しづつつかなくなっており精神的に不安定。
二人の視点で家族が描かれそこに探偵役のイェルロフが絡んでいく重層的な物語。今回も伝承が絡むので物悲しい幻想的な雰囲気が宿る。境界線がほんの少し曖昧なこの世界観が好きです。地味ではあるけど深い味わいがある。

赤く微笑む春 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

赤く微笑む春 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)