ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』上下(RHブックス+プラス)

100年前から行方が知れなかったハガダーが発見された――
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐにサラエボに向かった。ハガダーはユダヤ教の祈りや詩篇が書かれた書で、今回発見されたのは実在する最古のものと言われ、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていた。鑑定を行なったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。それを皮切りに、ハガダーは封印してきた歴史をひも解きはじめる……。(武田ランダムハウスジャパン:http://www.tkd-randomhouse.co.jp/books/details.php?id=1108)

500年前に作られた実在するサラエボ・ハガダーと呼ばれるユダヤ祈祷書を巡る事実と虚構を混ぜ合わせた物語。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下に学芸員たちに守られた「サラエボ・ハガター」の鑑定と修復を依頼されたハンナは本の間から昆虫の羽根やワインのしみ、塩の結晶、白い毛などを見つけ出す。それらを科学的に調査していくハンナの物語と時代を遡りながらなぜ本にそれが付着したのかの物語が平行して語られる。
ハンナが見出す科学的な結果と読者のみに語られるハガターに纏わる物語を上手くリンクさせていく。また時代の物語は流転の民ユダヤ人の歴史を辿る物語であり、ハンナの物語は自身のアイデンティティやルーツを探る物語にもなる。物語構成の上手さには感嘆する。しかし個人的にはハンナの物語にはいかにもなロマンス小説風味で乗り切れず…。主人公がどうしても好きになれない。時代を遡りながらのハガターに関わった様々な人々の物語のほうはその時代の価値観や人の生き様などを考えさせられたりして面白かったんですが。とはいえ歴史の重さや残酷さがあって読むのがしんどかったり…。
ユダヤ人の虐げられてきた過去を物語に絡める小説が最近多いかな。しかしそうやって生きてきた人種でも虐げる側に回れてしまうのが現実なのも確かで、可哀想ね、だけで済まないのが難しいものです。

古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)