ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝 (ファージングI)』(創元推理文庫)

1949年、副総統ルドルフ・ヘスの飛来を契機に、ナチスと手を結ぶ道を選んだイギリス。和平へとこの国を導いた政治派閥「ファージング・セット」は、国家権力の中枢にあった。派閥の中心人物の邸宅でパーティーが催された翌朝、下院議員の変死体が発見される。捜査にのり出したスコットランドヤードのカーマイケル警部補だが──。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488279059)

歴史改変三部作ファージングシリーズの第一作目。面白かったです!!創元だしもう少し硬い小説を予想していたのだけど予想外のエンタメ系。内容はかなり重いのだけど軽やかさがある。絶妙のバランス。小説の構造も面白い。
ナチス・ドイツ講和条約を結んだイギリスが舞台です。講和条約を結んだ政治家の一派は「ファージング・セット」と呼ばれ政治の中枢にいます。ある日、ファージングにあるエヴァズリー卿の屋敷でパーティが催され、講和条約に多大な貢献をしたジェイムズ・サーキー下院議員が殺される。いったい誰がどんな目的で彼を殺したのか。
エヴァズリー卿の娘でイギリス生まれのユダヤ人と結婚したルーシーの視点と事件を担当することになるスコットランド・ヤードの警部補カーマイケルの視点から交互に描かれ物語は進みます。いわゆる屋敷もの本格ミステリの体裁から始まる物語ですが、犯人探しをするうちに政治的陰謀がみえてくるという仕掛けです。歴史改変ものとはいえば改変された大きな歴史の流れのなかでの営みが描かれることが多いですが、このファージングシリーズは個の視点から改変されゆく歴史をあぶり出していく手法。本格ミステリとして読むと少し弱いかもしれませんが、それを包み込んで歴史の転換点を描き、そちらに落とし込んでいきましたか、という驚きがありました。イギリスにファシズムが吹き荒れたらどうなるのか、その発端を描いた第一作目、否が応でも二作目に興味を持たせていきます。

英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)

英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)