マイクル・コナリー『暗く聖なる夜』上下(講談社文庫)
ハリウッド署の刑事を退職し、私立探偵となったボッシュには、どうしても心残りな未解決事件があった。ある若い女性の殺人と、その捜査中目の前で映画のロケ現場から奪われた200万ドル強盗。独自に捜査することを決心した途端にかかる大きな圧力、妨害……事件の裏にはいったい何が隠されているのか?
その歌はわたしの知っている歌であり、彼女はそれを巧みに歌った。その声はそよ風のように柔らかかった。その歌の元々の歌い手はこの世の苦悩のすべてをそのかすれ声に乗せて歌っていたのだが。
青い空が見える 白い雲も見える 明るく、清らかな昼 暗く、聖なる夜 そしてわたしは、ひとりでこう思うのだ なんと素晴らしい世界だろう、と――<本文より>(講談社:http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2751844)
読み始めで傑作の予感はしてたけど『エンジェルズ・フライト』に続きボッシュシリーズの傑作のひとつ!コナリーはボッシュシリーズに関して言えば『エンジェルズ・フライト』以降、安定して良い作品を書いてるなあ。勿論、初期作品も好きなんだけど、シリーズ中期以降は小説技法が安定している上にテーマが広く深くなっていると思う。
『暗く聖なる夜』は『シティ・オブ・ボーンズ』で刑事を退職したボッシュが私立探偵になって登場。ハードボイルド色が強くなっています。私立探偵の資格を取ったとはいえ、警官時代に未解決で忘れられない事件を追いかけるので厳密言えば私立探偵ものではなく警察小説の一環に連なる。事件を追ううちにボッシュは結局は警官でなくなったことのジレンマを抱えることになるし。そこがまた物語として活きている。
小説のなかで流れる「What a Wonderful World」の曲が効果的に効いてる。とても切なく「生きていく」哀しさが浮かぶ。この作品で登場する警官の妻ダニーというキャラが本当に素敵だ。愛すること、がどういうことか体現している女性だと思う。辛くても愛することを諦めない。コナリーにしては珍しく地に足をつけた女性を描いた。
エピローグはビックリ…でもこのまま上手くいくとは思えない私…(^^;)
- 作者: マイクル・コナリー,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/09/15
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