伊藤計劃『ハーモニー』(ハヤカワJコレクション)

〈生府〉を基盤とする医療福祉社会は、ある衝撃的な事件を機に崩壊の危機に瀕した。WHOの監察官・霧慧トァンはその背後に自殺したはずの親友の影を見るが……。(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/124644.html

友人からの借り本。第30回日本SF大賞作品。伊藤計劃さんの作品は読もうと思いつつなかなか手が出なかった。なんとなく、しんどそうだなって思っていたから。今回、友人が貸してくれたのでようやくです。読めてよかった。

この本は読んでいてとても哀しい気分になった。作者のブログはだいぶ前から読ませていただいてたし、この作品を書いていた時にどういう状態でいたか、というのも知っている。だからどうしても作品と作家を重ねあわさずにはいられなかった。

絶望だろうか、それとも祈りであったのだろうか。読後感がとても物悲しい。ユートピアでありディストピアである物語。細かいことをいえばプロット、アイディア、物語運びは非常に上手いけど、細部が練られていなくて、いかにも若書きという気がする。人物造詣も浅いといえば浅い。人物の内面を徹底的に描かない方向なのかなと思ったけど、この作品ではそこは揺れてる感じ。でもその突き放せてない感じが物悲しいのかも。そして『ハーモニー』のなかのユートピアディストピアとの間の揺れがまさしく作家自身の切実な揺れとして物語の中に存在しているかのように思えた。言っても詮無いないことなんだけど、『ハーモニー』の後の作品が読みたかったなあ。「そしてそこから」、というのは絶対あったと思うんだ。WatchMe、全員が入れていたわけじゃないんだし、そこから亀裂もまた生まれたはずで…。

あとがきの一文に思わず泣けた。私からは伊藤計劃さんに「あなたの物語を読ませてくれてありがとう」と言おう。伊藤計劃さん、2009年3月20日没、享年34歳(ご本人ブログ:http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/)。

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)