ディーン・クーンツ『オッド・トーマスの救済』(ハヤカワHM文庫)

心の平静を求め、シエラネヴァダ山脈にある修道院に滞在していたオッド・トーマスは、12月の深夜、ボダッハ(悪霊)を発見した。ボダッハの出現は大惨事が起きる前触れとなるため、彼は調査を始める。だが修道士がひとり忽然と消え、さらに顔のない修道士や想像を絶する怪物が現われる。猛吹雪の中、修道院で暮らす子どもたちを守ろうと闘うオッドの前に、やがて驚くべき真相が!

故郷、ジコ・ムンドを離れゲストとして修道院に滞在しているオッド・トーマスだが平穏を求めてたはずの場所で厄災の兆候をみつけてしまう。オッド・トーマスは決してヒーロー的な人物ではない。腕力が強いわけでもなく、怜悧な頭脳を持っているわけでなく、ただ心根が優しい内省的なただの青年。そんな彼はその優しさという資質ゆえ、「ただの青年」でいたくてもいさせてくれない運命に立ち向かう。弱いものへの視点がとてもいい。哀しい物語だけどどこか希望がある。生きる力を信じてる、信じたいという方向の物語だ。クーンツが幼児期に辛い体験をしてきたから、こそなのかもしれない。今回の物語設定もクーンツ独特のB級の危うさがあるけど、それ以上に人の冷たさ弱さに立ち向かう勇気を信じるきちんと生きようとする人々への応援歌しての物語がとても素敵だ。このオッド・トーマスシリーズは切なすぎる物語だけど最後まで見届けたい。

オッド・トーマスの救済 (ハヤカワ文庫 NV ク 6-10) (ハヤカワ文庫NV)

オッド・トーマスの救済 (ハヤカワ文庫 NV ク 6-10) (ハヤカワ文庫NV)