カズオ・イシグロ『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(早川書房)

ベネチアサンマルコ広場を舞台に、流しのギタリストとアメリカのベテラン大物シンガーの奇妙な邂逅を描いた「老歌手」。芽の出ない天才中年サックス奏者が、図らずも一流ホテルの秘密階でセレブリティと共に過ごした数夜の顛末をユーモラスに回想する「夜想曲」を含む、書き下ろしの連作五篇を収録。人生の黄昏を、愛の終わりを、若き日の野心を、才能の神秘を、叶えられなかった夢を描く、著者初の短篇集。(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/118116.html)

カズオ・イシグロらしい作品だった。音楽に彩られた人々の人生の苦味をノスルジックに描いた短編。辛辣に、時にはユーモラスに情景を切り取っていく。描かれた彼らの人生は続いていき、その先は投げ出される。読者はその先を想像していくしかない。短編というより長編の一部のような感覚の作品でした。個人的には短編は余韻がありつつそれ以上は足さないほうがいいという凝縮されたものを求めてしまうので、少し薄味に感じてしまいました。視点は辛口なのだけど、そういう部分ではないところで何かスパイスが欲しかったかな。今のところカズオ・イシグロは長編のほうがらしさがでると思うし好きかも。

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語