全電通労働会館『SFセミナー2008 本会』

昨日、SFセミナー本会に行ってきました。行くたびに思うけどやっぱりSFセミナーは面白いしとても刺激になる。今年も楽しませていただきました。今年は合宿に行けばよかったよ、と大後悔でございます。個人的にほんのちょっとだけですがお手伝いさせていただいたことも本当にありがたかったし楽しかったです。スタッフの皆様、ありがとうございました。
久しぶりな方にお会いできたのも嬉しかった。ランチ、終演後のお茶を付き合ってくださった皆様ありがとうございました〜。


1.21世紀のファンタジー 「ハリー・ポッター」ポストの世界
出演:小川隆三村美衣

ハリー・ポッター」とその周辺のファンタジィーのお話なのかと思っておりましたら、「ハリー・ポッター」がヒットしたことによる出版、流通シーンへの弊害と転換期のお話でした。作家のローリング氏の権利意識の問題とか。結局は「ハリー・ポッター」が、というよりちょうど出版、流通シーンの変換期の時期の時流にうまく乗れた作品ということなのよね。だから「弊害と転換期」の象徴として扱われてしまうということかな。この後、日本では結局FTが売れないというけれど、「ハリー・ポッター」を本当に支持した年齢層をターゲットにした作品をきちんと出したのか?というほうが問題な気もするけど違うのかしらん。
小川さんはあくまでもSF周辺というか境界文学のほうのFTのことを言っているように感じたのよね。でもそこと「ハリー・ポッター」じゃターゲット違うんじゃ?と私は思ったんだけど。岩波で児童文学として出てればもっといい受け入れ方をしただろうと感じる。でもまあ静土社に出し抜かれた他の出版社の出足が悪かったのがそもそもなんだろうな…。私は 「ハリー・ポッター」好きですよ、ええ。楽しいもん。甥っ子がもう少し大きくなったら読ませるつもりだし。あっ、でもゲド戦記も一緒にね(笑)
それにしてもネットというのはやはり様々なところで急激な変化をもたらしてるんだなあと強く印象に残りました。


2.円城塔は私たちSFファンのものではなかったのか?
出演:円城塔、市川真一

円城さんが可笑しすぎる。不思議系なお人ですよね。キャラの立ち方がなんか違う方向に行っているというか…。終演後のお茶のときに愛されキャラだという結論に達してましたが。色々気になるキャラなことは間違いない。この人がなんで小説書いているのかまったくわからなかった。図形と模型がどうしてプロットになるんだ?私には理解不能。物理畑の人間だからってだけじゃない不可思議な方でした。なんかもうそれしか感想がでない(笑)。個人的は円城さんが好きな作家や作品を聞いてほしかった。なにかヒントが欲しかったです。カルヴィーノがかろうじて出たけど。これは作品の構造の話から出ただけだし。
私は円城さんの作品を読んだことがありません。とりあえず「物語」は書かない作家のようです。とりあえず何か読むべきね。


3.若手SF評論家パネル
出演:礒部剛喜、石和義之、海老原豊岡和田晃藤田直哉、横道仁志
司会:森下一仁

それぞれ色んなスタンスから評論家になっているんだなあと感じたのと、評論の意味合いも違うんだなあと。あまり「評論」という部分、考えたことなかったので面白かったです。評論も結局は自己表現の手段なんだなとも。特に若手にその方向が顕著かな。「評論SF」をムーブメントにできるよう頑張ってください。


4.天を衝け! 嵐を呼ぶ 中島かずきインタビュー
出演:中島かずき

今年のSFセミナーの一番のお目当てです。一応、SFセミナーなのでアニメ『グレンラガン』の作者という部分がメインだろうけど、私にとっては劇団☆新感線の座付作家としての中島さんの生のお話が聞けるチャンスなわけですよ。で、イメージ的には風貌も手伝って受けの聞き手タイプの方かと思いきや、とんでもなかった。さすがやっぱり第一線で活躍するクリエーター。話せるしそれがすこぶる面白い。こんなに楽しいお話が聞けるとは!です。なんかほんとクレバーな方だなあ。伝えたいことを破綻なくお話されるだけでなくバランス感覚が凄いと思う。二足のワラジを履いていてどちらもきちんと活躍されている、というのがよくわかる。

それと本、映画、アニメ、芝居と多感期に体験したものが確実に今の中島かずきという作家の根底にあり、また実になっているというのを実感。SFセミナー的に近所の本屋に1冊しかない「SFマガジン」を購読していた少年だったのいうのは参加者にとってかなり親近感が湧いた瞬間だったでしょう(笑)。またさらりと触れられてそれ以上はSFセミナーだけに話題にきちんとは出なかったですがミステリも大好きだった、というところにも個人的には納得。複線の張り方、そこをきちんと収束させる手腕、「ウソ」を「真」に見せるロジックの作り方の上手さはここからかなと。

あと中島さんは「等身大の人」を描くのに大きい枠組みを使うところだというのは判っていたけど、同時代の劇作家にはないスケール感はどこから来るのかなと疑問に思っていた。今回お話を伺ってみて元々伝奇SF系やアニメでも宇宙ものが好きというところからも来てるのかなと思ったり。山田正紀『神狩り』から入って半村良『産霊山秘録』、国枝史郎神州纐纈城』、あたりお好きだそう。

ベイリー『カエアンの聖衣』が大好き。『禅銃』よりこっち。うわああ、そうよね、私も、私も〜。突拍子もない設定なのに、その変さ加減を納得させてしまう力技な小説です、興味のある方はぜひ読んで。

萌えがいまだにわからない!とおっしゃる中島さん(笑)確かに、中島さんの描く物語はある意味「健全」だもん。そこが好きなんだよな。そこに萌えをみつける人もいるけど<あっ、それって私?

2000年『阿修羅城の瞳』は劇団☆新感線にとっても転換期。劇作家としての自分に覚悟ができた。表に出ることで足が地に付いたそう。個人的にこの作品は色んな人にとって大事な宝物になっているんじゃないかなと感じる。それだけの輝きがある作品だと思っているんだけど、それを中島さんから聞けたのも嬉しかった。私にとっても『阿修羅城の瞳』に出合ったことで劇団☆新感線を追いかけるようになったし、またそこから歌舞伎以外の演劇に興味を持つようになった大事な作品。

それにしてもやっぱ中島かずきさんには「歌舞伎」を書いてもらいたい。今、同時代の色んな劇作家が「新作歌舞伎」を書くようになっているけど、スケール感のあるいわゆる時代物といわれる系統の作品はまだ出てきてない。中島さんだったら書けると思う。