デニス・ルヘイン『運命の日』上下(早川書房)

第一次大戦末期の1918年。ロシア革命の影響を受けて、アメリカ国内では社会主義者共産主義者アナーキストなどがさかんに活動し、組合活動が活発になる一方で、テロも頻発していた。そんな折り、有能な警部を父に持つボストン市警の巡査ダニー・コグリンは、インフルエンザが猛威をふるう中、特別な任務を受ける。それは、市警の組合の母体となる組織や急進派グループに潜入して、その動きを探ることだった。だが彼は、捜査を進めるうちにしだいに、困窮にあえぐ警官たちの待遇を改善しようと考えるようになる。一方、オクラホマ州タルサでは、ホテルに勤めていた黒人の若者ルーサー・ローレンスがトラブルに巻き込まれてギャングを殺し、追われる身となっていた。ボストンにたどり着いたルーサーはコグリン家の使用人になり、ダニーと意気投合する。ある日、ダニーは爆弾テロの情報を得て、現地に急行する。だが、その犯人は意外な人物だった……。(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/111340.html)

角川から入った人間なのでどーしてもルヘインよりレヘインのほうがしっくりくるなあ。
さて、『運命の日』は「痛み」というものを真正面から描いた傑作!1910年代、非常に不安定な時代のアメリカをボストンを中心に描いた歴史小説。見事に「移民国家アメリカ」というものを浮き彫りにする。ベーブ・ルースを上手く絡ませることで「時代」というものを、ひいては矛盾を抱えるアメリカそのものを描き出している。
ルヘインはアメリカの暗の部分を容赦なく曝け出す作家だが、この作品はその真骨頂だろう。家族、夫婦、親子という個と個の関係性を丁寧に描くことで組織そして社会というものに言及していく。カタルシスというものをまったく描かないことで人間の愚かさ、弱さ、哀しさを、また逞しさ強さを表現していく。登場人物のひとりひとりに血肉が通い人としてのふくらみがある。彼らの関係性は絶えず変化し、また変わらない。善と悪、表と裏、それが一面ではないことを突きつける。正義とはなにか?
それにしてもボストンの警察官ストライキの結果が大暴動という恐ろしいことを引き起こそうとは…あまりの悲惨さにただもう呆然。そしてまた「今」もまだアメリカという国にはそれが内包されている現実がある。階層社会というものの暗の部分が時に外に噴出してしまう。しかしそれを描き出そうという人たちが多く存在することもまたアメリカの一面。

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ)