松本幸四郎・松たか子『父と娘の往復書簡』(文藝春秋)

梨園の親子であり、舞台人でもある松本幸四郎松たか子の率直で親密な往復書簡。雑誌連載中に迎えた嫁ぐ日を巡る言葉が胸に迫る(文藝春秋http://www.bunshun.co.jp/book_db/3/70/73/9784163707303.shtml

文藝春秋「オール読物」に掲載されていた松本幸四郎さんと松たか子さんの2年間にわたる往復書簡23通をまとめたものです。高麗屋ファンの私ですがさすがにこれは買うつもりはなかったんです。しかし「オール読物」を毎月購読している読書好きのBLOGで「ある月の幸四郎の手紙を読んだ時にこの人の文章は日本一美しいと思った」と感想を書いている人がいて、その手紙を読んでみたくなったんです。 ああ、これだと思った1通がありました。文章の美しさそのなかの情景の美しさ。幸四郎さんという人は言葉を操る職業の人ですがその言葉(台詞)たちをきちんと自分の血肉にしてきた人なんだなあと思いました。この文章を読めただけでも買った甲斐がありました。

でもそれだけじゃなく、24通の手紙の内容の濃さに、良いものを読んだなあと思いました。幸四郎さんとたか子ちゃんはとことん役者なんですよね。だから単なる父と娘の文通にはなりえないんです。内容のほとんどが芝居のことです。役者という道を選んだ二人の様々な思いがそこには書かれていました。この二人の距離感がまた楽しいです。最初の頃はなんだかお互いのやりとりがぎこちないんですよね。基本はお互い役者という立場でのやりとりですが書簡が進むにつれ少しづつそのなかに父と娘の気持ちが自然に言葉になって入ってきている。後半になるとそのお互いの思いを綴った文章にじわっときたりして。

往復書簡の2年間は二人が当初まったく予想していなかったことが次々と起こっています。この時期にこういうものを書けたことは二人にとっても幸せだったかもしれませんね。個人的に芝居に興味がない人たちにもオススメです。


父と娘の往復書簡

父と娘の往復書簡