D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫)

人気作家ジョフリーの邸宅〈ガーストン館〉に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたり脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が、館の複雑な人間関係に強い緊張をもたらしていた。そして憎み合う兄弟は、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消した。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3886)

端正な本格ミステリです。どことなく英米推理小説黄金期の雰囲気を感じたのですが、作者は1960年代から活躍している方のようなのでその流れを汲む作家なのでしょう。この作品も出版は1981年の作品。いわゆる古さは感じないのですが、でもなんとなく懐かしい感じがします。アガサあたりからの海外ミステリを読んできた人たちは絶対好みでしょう。

いわゆる本格ミステリとして綺麗に複線をちりばめロジックを追いかける部分も面白いのですがこの小説の面白さはそこだけではありません。登場人物たちの人間模様のドロドロがなかなかにすごいです。皆が一筋縄ではいかず、何がおきてもおかしくない状況。というか殺人事件のひとつやふたつ起きるだろう、というな〜んかイヤな雰囲気が漂っております。語り手の主人公からして殺された人物に悪感情を抱いているわけで。事件をさぐるうえで悪感情から発する解釈を信用していいのやらな状況です(笑)でも殺された人物も大概な人物だし…。そのイヤ〜な人間模様が単純な事件のはずのものに目くらましを与えます。犯人の隠し方が絶妙で、久ぶりに犯人の目安をうまくつけられませんでした…悔しい。でも後から考えたらきちんち複線を張ってあるんですけどね。でも犯人の動機がいまいち納得できないちゃ、できないんですが。強固な動機とまではいかない感じが。まあでもこの本に関してその部分、それほど傷ではないです。D・M・ディヴァインはもう少し色々読んでみたいですね。

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)