ローラ・ウィルソン『千の嘘』(創元推理文庫)

母の遺品整理中にモーリーン・シャンドという女性の日記帳を見つけたエイミー。一見平凡なその記述に違和感を覚えた彼女は、モーリーンについて調べはじめる。だが、18年前にシャンド家で起きた殺人事件のことを知り、モーリーンの母アイリスや姉のシーラとじかに接触を持った直後から、エイミーの身辺では不審な出来事が相次ぐ。シャンド家の事件はまだ終わっていないのか? 幾千もの嘘が彩る過去の悲劇の真実とは。(創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3869)

我ながら嗅覚良すぎ…。何がって、7月26日に観たお芝居『SISTERS』(観劇感想)のせいであれこれ考えすぎて当分避けようかなと思っていたものが題材だったんです。最近、創元推理文庫で出す海外ミステリの女流作家ものに連続当たりが多かったから手に取ったんですけどね。まじですか〜、タイミングよすぎ。色んな部分で『SISTERS』の主題と重なっている。『SISTERS』のほうがある意味関係は単純化されているのですが。この本読んだら『SISTERS』での自分の解釈のあれこれが少しばかり崩れてきたかも。こうもタイミングよくこれを手に取ったってことはもっと考えろってことですかね。

『千の嘘』では人間の在り様の複雑さがこれでもかって感じで描かれています。イギリスの女流作家はとんでもないですよ。加害者に対する厳しさはもちろんのこと、それを徹底糾弾したうえで、女に対する視点も超厳しいです。単純に加害者、被害者というだけの関係にしないんです。弱者はただの弱者だけではない。また元々、そういう方向の男性に惹かれる、求めるメンテリティを持っている女性も描く。どちらが強くて弱いのか。支配される側と支配する側は往々にして表裏一体。ラストの解釈、どんだけ私ったらネガティブ方向解釈なんだ、と思うが、でもたぶんローラ・ウィルソンはそこまで書いてると思う。しかも、さりげなく描いてしまう。依存と支配の逆転関係も意識してか意識下でか、その部分をうまく曖昧にしている。人間関係の複雑な面を見事に書き込んでいます。 正常と狂気の間のなんと脆いことか。

千の嘘 (創元推理文庫)

千の嘘 (創元推理文庫)