ジェフリー・フォード『シャルビューク夫人の肖像』(ランダムハウス講談社)

好況に沸く19世紀末のニューヨーク。肖像画家のピアンボに突然声をかけてきたのは、両目が白濁した盲目の男。シャルビューク夫人の使いと称し、法外な報酬を口にして、肖像画の製作を依頼してきた。ただし、屏風の向こうで夫人が語る過去の話とその声だけで、姿かたちを推測しなければならない、という奇妙な条件付きで。(ランダムハウス講談社http://www.randomhouse-kodansha.co.jp/books/details.php?id=193)

『白い果実』で世界幻想文学大賞受賞したジェフリー・フォードの作品。幻想を描く作家というわけではなくアメリカ探偵作家クラブ賞受賞『ガラスのなかの少女』ではしっかりとしたミステリも描いている。そういう意味では『シャルビューク夫人の肖像』は幻想とミステリの中間の作品といって良いかもしれない。色んな部分で虚実のバランスが面白い作品でした。一風変わった小説が好きな人に是非オススメです。

姿を見せずに肖像画を依頼してきたシャルビューク夫人が語る自分の半生記が魅力的です。彼女が語る物語は非現実的。どこまでが事実でどこまでが虚なのかすらわからない。父親が結晶言語学の占い師、という設定からして摩訶不思議な世界。ピアンボとともに読者は彼女の姿を想像していくことでしょう。そして幻想に縁取られ美しい姿をした一人の女の見え隠れした「実」が目の前に現れた時、物悲しさを知るかもしれません。そこにビアンボの画家としての苦悩や恋人や画家仲間の想いなどが絡み、現実の人の生き様の在り様も絡めながら物語が進んでいくところがこの物語に厚みを与えている。脇のシェンツ、サボット、サマンサが人間味溢れていて魅力的。だからこそシャルビューク夫人の不可思議な世界が浮き出てもくるのだろう。

前半の幻想譚のような雰囲気から後半は実をみせるミステリに変容していきます。ここまで「実」を見せなくても、と思ったりも若干しましたがそれでも全体的にどこか妄想じみた世界でもありました。

シャルビューク夫人の肖像 (RHブックス・プラス)

シャルビューク夫人の肖像 (RHブックス・プラス)