フレッド・ヴァルガス『論理は右手に』(創元推理文庫)

パリの街路樹の根元に落ちていた犬の糞からなぜ人骨が出たのか? カエルをペットにする変わり者の元内務省調査員・ケルヴェレールが捜査を開始した。若き歴史学者マルク=通称聖マルコを助手に彼が探り当てたのは、ブルターニュの村で起きた老女の事故死だった。骨は彼女のものなのか? ケルヴェレールが、聖マルコ、聖マタイとともに老女の死の意外な真相に迫る。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3834

『死者を起こせ』の三聖人シリーズ第二弾です。とはいえ、今回はボロ館は出てこず、三聖人になぞらえられたマティアス、マルク、リュシアンのうち活躍するのはマルクと後半にマティアスが少しばかり。今回の主人公は元内務省調査員、ケルヴェレールです。三聖人もかなりの変わり者ですがヒキガエルのビュフォを上着のポケットに入れて会話しながら捜査するケルヴェレールも負けず劣らずかなりの変人。しかし単なる変わり者ではなく信念をもってしつこく真実を追い求める姿に人生の陰影がある。そしてその影には彼の出生の秘密が。その提示の仕方の見事なこと。複雑に絡みあう真相といまだ癒えぬ戦争という過去。皮肉とユーモアをちりばめながら「真実」の重さをさらりと描ききる。フランスミステリならではの味わいがある見事な物語でした。事件に巻き込まれる人々のそれぞれのキャラが立っていて読み応えあります。ケルヴェレール単独でシリーズ化してもいいくらいの密度。

論理は右手に (創元推理文庫)

論理は右手に (創元推理文庫)