デニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』(角川文庫)

私立探偵、パトリック&アンジーシリーズの第四弾です。三作目『穢れしものに祝福を』を抜かしてしまったようですがまったく支障はありませんでした。シリーズものは順番に読んでいくほうがいいと思いますがこの作品は単体で読んでも大丈夫かもしれません。とはいえ二作目までは読んでおいたほうが登場人物たちの背景はより鮮明です。


世間でも騒がれている四歳の少女アマンダの行方不明事件の調査を少女の叔父叔母夫婦に頼まれたパトリックとアンジー。最初は依頼を受けるのを渋っていたがアマンダの母親の娘への無関心な態度に義憤を感じ調査を始める。調査をするうちにアマンダ失踪事件にはマフィアの麻薬取引に絡んだトラブルに関係があるようで…。


二転三転する物語のなか、なんともやりきれない結末を迎えます。幼児虐待を扱ったこの作品、何が正義なのか、善悪とはなんなのか、法とは、様々な問いかけに答えが見つからないままページは終わります。一日に2300人の子供が行方不明になりそのうち年間300人は戻らないという現在のアメリカの病理を真正面から扱っています。すべてがどこかでおかしくなってしまっている、そんな社会。このシリーズは多少キャラクター造詣が一面的だったりご都合主義な脇役がいたりするのですが、幼児虐待という重いテーマをしっかり描いて読み応えがありました。パトリックは自分の「正義の範疇」で仕事をこなしますがそれが「正義」だったのか答えは無いままです。それゆえアンジーは彼の元を離れます。男女の違い、というだけではない難しい問題を突きつけられた二人。ひいては社会に暮らす人々への問いかけでもあります。読み終わった後「この方法しかないのか」と歯噛みするしかない無力感に襲われました。プロローグとエピローグがとても切ない。辛い物語ですが色んな人に読んでもらいたい作品です。

愛しき者はすべて去りゆく (角川文庫)

愛しき者はすべて去りゆく (角川文庫)