ジョン・ダニング『失われし書庫』(ハヤカワHM文庫)

稀覯本を入手して時の人となった古本屋クリフを、それは私の書庫から盗まれた本だと主張する老婦人が訪れた。彼女は稀覯本で埋め尽くされた一大書庫を持っていたが、八十年前に騙し盗られたという。彼女の頼みで失われた蔵書を探し始めたクリフを、思わぬ悲劇と歴史の真実が待ち受けていた……古書蘊蓄ミステリ。http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/60508.html

『死の蔵書』、『幻の特装本』に続く、元刑事で古書店の経営者のクリフが活躍するシリーズの第3弾です。古書の蘊蓄も楽しいシリーズですが今回はただ古本の蘊蓄を語るだけでなく、19世紀のイギリスの探検家リチャード・バートンを絡め、アメリ南北戦争時の歴史の謎を探るという、もう少し突っ込んだ趣向。実在の人物バートンの謎の空白期間を語るチャールズ・ウォレンの物語はとても面白い。ただ、彼らが残したものをめぐる現在のパートが少々おざなりになっていてミステリとしてもうひとつ吸引力がない。非常に味のあるいいキャラクターを配置しているのに書き込み不足。うまく描けば傑作ミステリになりそうな題材だったのにもったいない出来。

失われし書庫 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

失われし書庫 (ハヤカワ・ミステリ文庫)