イアン・ランキン『黒と青』上下(ハヤカワHM文庫)

変死体で見つかった男性の調査を始めたリーバイス警部は事件の背景を探るため油田のある都市アバディーンへと赴むくが、そこにはバイブル・ジョンやジョニー・バイブルの痕跡があり…。「バイブル・ジョン」とは1960年代にスコットランドを騒がせた連続殺人犯。そして30年後の今、バイブル・ジョンにそっくりの手口で殺人を繰り返す模倣犯ジョニー・バイブルが現れ世間を騒がせていた。リーバイス警部はバイブル・ジョンに殺された女性の一人と知り合いだった為もありこの事件に強い興味を抱いており、変死体で見つかった男性の捜査と共にジョニー・バイブルを追いかけはじめるのだが…。


リーバス警部シリーズ8作目の作品で1996年のCWAゴールドダガー受賞作。スコットランド警察の警官リーバイスを主人公にしたミステリ。第1作目の『紐と十字架』を読んだ時に警察小説ではなくハードボイルドサスペンス系の小説だと感想を書いたことがあるのですが、この8作目も1作目よりは警察小説の趣はだいぶあるものの基本はハードボイルドサスペンス。主人公のリーバイスは相変わらず協調性のない一匹狼的な性格で精神的にも脆いタイプ。このタイプの主人公でシリーズ化しているところが面白いです。『黒と青』はいくつかの事件を追う形で進んでいきます。そしてそれらが複数の人物の視点で語られていく、というかなり複雑な構成。ちょっと読んでいて面倒な部分がありました。ひとつひとつの事件の背景は面白いのにあれこれ絡めすぎて、少々掘り下げが希薄な部分がありもったいないなと。ただ、スコットランドの社会描写、警察内部の腐敗、油田の関する環境問題、等の描こうとする問題意識の部分は興味深く、またリーバイス警部というアウトサイダーぎりぎりの警官としての生き様が丁寧に描かれていて読み応えはあります。盛り込みすぎて終盤失速ぎみなのが残念。

黒と青〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黒と青〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黒と青〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黒と青〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)