長谷部浩『菊五郎の色気』(文春新書)

友人から借りて読みました。役者として円熟期に入ったであろう当代の尾上菊五郎さんの持ち味、芸風、芝居のあり方を本人、家族の聞き書きを加えつつ、語っている本。長谷部氏が菊五郎さんをきちんと見始めたのが最近のようで、最近の役についてが中心。若い頃の役については「こうであったろう」という語り口。これは残念ながら役者論としては少々片手落ちかなとは思うものの、ここ最近の菊五郎という役者としての論としては客観的にかなり納得できる分析はされている。また聞き書きの部分での家族から見た菊五郎の芸質のあり方もポイントをついてて、やはり家族中で役者をしているだけあってきちんと見ているなと感心。


最近の役が中心なので、こちらも記憶に新しい菊五郎さんの芝居を思い出しつつ、長谷部氏の菊五郎論に納得したり、私はちょっと違う見方をしているなと思ったりが出来るので、そういう部分でも面白い。しかし取り上げる役が少ない気もした。なんというかもっと菊五郎さんの役について語るものがあるだろうと思うんだけどなあ。なんかちょっと物足りなさも。


長谷部氏の文章が少しばかり中途半端な感じがする。長谷部氏の立ち位置が、という部分で文章としての芸が足りないって感じ。菊五郎家族と親しくしていると明快に知れるようなエピを入れているわりに、菊五郎愛が足りない。身贔屓の部分が、中途半端なのよね。だから?どうなの?と突っ込みたくなったり。身贔屓がなければ「役者論」なんて書けないと思うんですよ。ならもっと懐に入り込んだ文章を書いていたただきたいと思わなくもない。あと、代々の菊五郎のことを簡略に紹介しているのはいいけど、年表くらいはつけたほうがいいと思う。とりあえず当代の役々の履歴は必須では?