スティーブン・キング『トム・ゴードンに恋した少女』(新潮文庫)

9歳の少女が森で迷い一人ぼっちの冒険が始まる、というような惹句の本ですから、キングが少年少女向けに冒険物語でも書いた本かと勘違いしてたんですよ…。確かに、キングお得意の青春もの系のひとつには違いないのですが、「冒険もの」と「サバイバルもの」の違いを突きつけられました。だって、9歳の女の子に容赦ないんですよ〜。一夜の冒険なのかと思って読み始めたらとんでもなかった…さすがキング御大。「生きる」と「生き延びる」の境界線。表紙や惹句からは想像もつかない過酷なサバイバル物語。


どんどん深みにハマり体がぼろぼろになっていく少女。しかし、彼女は負けません。大好きなトム・ゴードンと頭のなかで会話しながら前向きに前向きに進んでいきます。少女にとっての命綱は「大好きな人」。トム・ゴードン(リリーフピッチャー)ならどんな状況でも負けないと信じているから。キングの細かい描写が非常に活きている物語です。アメリカという国の一面が一人の少女の物語に含まれています。家族の物語でもあります。そう、アメリカは家族の国ですから。その絆の弱さと強さと。章だてを野球の試合になぞっているのですが、これがうまくリンクしラストに収束されていくのが素敵です。

トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)

トム・ゴードンに恋した少女 (新潮文庫)