イアン・マキューアン『セメント・ガーデン』(早川書房)

主人公ジャック14歳の夏、父親が心臓発作を起こしセメントに顔を突っ込んで死ぬ。そして翌年、母親も死んでしまう。このままでは兄弟4人がバラバラに離されてしまうと姉ジュリーとジャックは母親を地下室でコンクリート詰めにすることを思いつく。そして4人の子供たちの気ままな生活が始まるのだが…。


内容はセンセーショナルな話のはずだが、真っ当すぎるほど真っ当な青春小説。なんというかインモラルな雰囲気を感じない不思議。この作家の淡々とした描写がそう感じさせるのだろうか。夏休みという短い時間の物語なのだがその「時間」は非常に曖昧に過ぎていく。短くもあり長くもあり。突然、支配するものから自由になり、自由を謳歌する子供たちではあるが、そこにユートピアらしき楽園をあまり感じない。ただ持て余しているかのようである。近親相姦もあっけらかんと描かれる、その罪の意識のなさがどこか開放感に繋がる。普通の小説だね、との感覚を抱いてしまう読者の私は何かに毒されている?

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)