ジョナサン・キャロル『蜂の巣にキス』(創元FT文庫)

スランプに陥った作家サム。久ぶりに彼は故郷に足を踏み入れ、30年前に起きた殺人事件を描こうと思いつく。サムは少年時代に憧れの少女の死体を見つけた経験があったのだ。サムは少年時代友人だった警察署長マケイブと、自身のファンで知りあったばかりの恋人ヴェロニカと共に事件の真相を探っていく。しかし探っていくうちに…。


ジョナサン・キャロル9年ぶりの訳出。そしてなんとダークファンタジィーではなくどこからどう読んでも「ミステリ」でした。へええ、そうくるか。いわゆる過去探しものなミステリです。しかしながら人物造詣はキャロルならではでした。過去を探すうちに悪夢へといざなわれる。怖いっす。あちらこちらへと飛んでいく「ポリーンの事件」の主題をきちんと収束させる手腕は大したもの。ミステリとして合格点。ただしこの小説には「事件」とは別にもうひとつ軸がある。その軸は投げ出されたまま。ダークファンタジィであれば投げ出されても気にならなかったと思うが、「ミステリ」としては回収して欲しかったかなあ。ファンタジィーが苦手でジョナサン・キャロルを手に取らなかった人たちには十分、らしさは伝わるし、ミステリとして複線の張り方も上手いので「ミステリ」好きの方はぜひ手に取ってみてください。


浅羽莢子さんの訳は相変わらず流麗で素敵。キムタク好きは今でも変わらないのかしらん。