キャロル・オコンネル『魔術師の夜』上下(創元推理文庫)

前作『天使の帰郷』からようやく待ちに待ったマロリーシリーズ第5弾。いったいマロリーはどこへ?とかなり心配していましたが、ちゃんとニューヨークへ戻り刑事をやってました(笑)チャールズも傍らにいるし。といってもまるで進展なしというか、相変わらず可哀想すぎなチャールズですが…。そうか、マロリーも普通の女だったというのがこの第5弾。珍しくマロリーの内面がしっかり描かれていると思ったら、幼少時のトラウマがあったり美男子好きな面があったり(笑)。かなり感情を顕わににしてきて「完璧で氷のように非情な女」のイメージからだいぶ変化の兆しが。


今回はチャールズの従兄で伝説のマジシャンと言われるマックスのマジシャン仲間たちの物語。マックスの「失われたイリュージョン」を復活し演じていたオリバーがイリュージョンを失敗しTV中継中、観客の前で死んでしまう。そして次々とマックスのマジシャン仲間たち周辺に事件が起こり始める。


若かりしマジシャンたちが過ごした第二次大戦中、ナチ占領下のパリでの過去とニューヨークでの現在の事件とが錯綜する物語。今回はとても視覚的イメージが映画的で面白いです。過去のセピア色のなかのシーンと現在のニューヨークでのカラーの対比が印象的。マロリーシリーズは主役が完璧な女性だけに、実のところ周囲のユニークな個性をもつ脇役たちのほうがより魅力的です。今回は老マジシャンたちの過去での若かりし頃の短慮な美しさと現在の老いてなお活力のある老人ぶりがとてもいい味を出しています。マロリーすらたじたじにさせていますからねえ。老人パワーあなどるなかれ。


それにしても最近、欧米ミステリでは第二次大戦を事件に絡ませるものが多いような気がするがたまたま私が読んでいるものがそうなのかな?作家側に力が入るのか、わりと良い作品が多いように思います。