小林恭二『心中への招待状 華麗なる愛死の世界』(文春新書)

『悪への招待状』で黙阿弥『三人吉三』と幕末江戸文化を語った著者が今度は近松門左衛門曽根崎心中』と元禄大坂を語った本。今月歌舞伎座で観た『曽根崎心中』の感想を書く前に読まなくて良かったよ〜。だって時代背景をしっかり調べ微細に説得力をもってお初や徳兵衛の心情を読み解いているので絶対に感想に影響してしまったに違いないもの。そしてこれを読んで新藤十郎さんのお初と見事にリンクしているので驚いた。そうか、あのお初でいいのか、と納得しかけた。でもよくよく考えたら、小林恭二氏は歌舞伎『曽根崎心中』を観ているのだし、お初は新藤十郎さん以外やっていないのだから、もしかしたら小林氏は新藤十郎さんお初ありきだったかもしれないなあとふと思った。九平次への違和感もしっかり書かれているのだけどこれはかなり納得。近松がいったい二人をどう描きたかったのか原本をあたってみたくなった。歌舞伎初心者には『悪への招待状』のほうがオススメ。これは『曽根崎心中』を観た後で読むほうが面白いと思います。