小林恭二『悪への招待状-幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ』(集英社新書)

小林恭二の著作は歌舞伎入門にちょうどいいと聞いてはいたのですが、その理由がわかりました。江戸時代の歌舞伎観劇の情況を通して幕末の江戸の雰囲気を伝え、また黙阿弥の『三人吉三』に登場する小悪党たちの魅力を語ることで江戸の暗部を見つけ出してみせる。爛熟しきって滅び行く運命の江戸の風俗をしっかり見つめ考証してみせるとともに『三人吉三』という戯曲の面白さを、押し付けがましくない程度に小林恭二自身の解釈できちんと伝えている。語り口に工夫がありとても読みやすい。歌舞伎に触れたことがない人でもこの本はかなり楽しめるのではないだろうか。