マイケル・スレイド『斬首人の復讐』(文春文庫)

マイケル・スレイドのカナダ連邦騎馬警察シリーズの第6作目。そして第一作目『ヘッドハンター』の完全なる続編でもある。出来ればシリーズもの順番にきちんと読んで登場人物たちを把握してからのほうが楽しめる。もちろんこの作品だけでも楽しめるようには描かれてはいるのだが『ヘッドハンター』のダイジェスト的物語が含まれることになるので、純粋に面白さを味わいたければ『ヘッドハンター』(創元推理文庫)必須。


それとせめて文春文庫から出てる『髑髏島の惨劇』『暗黒大陸の悪霊』を読んでからのほうがより楽しめます。複線がちゃんと張ってあったりするので。最初の3作品『ヘッドハンター』『グール』『カットスロート』は絶版だったのですが『ヘッドハンター』は9月10日に復刊されましたのでまずはこちらから是非。サイコサスペンスであり警察小説であり、ある意味本格ミステリで、それぞれの巻で宗教や文化等の薀蓄もたっっぷりというかなりお得感のあるミステリ小説です。やりすぎ感でバカミスの域に達してる作品もあります。と、前置きが長くなりました。


カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州北部の山中で先住民たちが土地の返還を求めて武装蜂起。事態を収めるために派遣されたエド巡査長は戦いのさなか、全裸の首無し死体を発見。<刎刑吏デキャピテイター>と名づけられた山中での首なし死体の殺人事件のはじまりであった。またヴァンクーヴァーのディクラーク警視正宛には小さく加工された首が送りつけられてくる。捜査していくうちにディクラーク警視正は<斬首人ヘッドハンター>事件との類似が多いことに気が付いていく。


<刎刑吏デキャピテイター>と名づけられた山中での首なし死体の殺人事件は先住民と白人との文化的対立が描かれ、少数民族の迫害の歴史が現在に到るまで傷を残していることを示唆する。また<斬首人ヘッドハンター>事件では犯人の心理や犯行が描きこまれていきます。<斬首人ヘッドハンター>と<刎刑吏デキャピテイター>と関係があるのかないのか…。いったいなぜ首を刎ねなければいけないのか。


今回もこれでもかというくらいの殺人が描きこまれていきます。ヘタするとヘタしなくてもそういう描写がスレイド作品をバカミス方向で捉えてしまう要素がたっぷり。そして本格ミステリではありますがわりと犯人像がわかりやすいのもバカミスへの道に拍車をかけるんですが。ところが今回は少数民族への差別とか弱いものへ虐待とかトラウマとかが密に描きこまれていて題材が題材だけにかなり重い部分を感じてしまい単純にバカミスとして楽しめるものではありませんでした。勿論ジェットコースターミステリとしてのリーダビリティの高さとかエンターテイメント性は相変わらずなんですけど。でもこういう題材をストレートに持ってこられると…途中からちょっと背筋を伸ばして読んでしまいました。