デイヴィッド・リス 『珈琲相場師』(ハヤカワHM文庫)

17世紀のアムステルダム、砂糖の先物取引で借金を抱え弟夫婦の世話になっているポルトガルユダヤ人相場師ミゲルは知り合いの裕福な未亡人からコーヒーを紹介され一儲けしようと持ちかけられる。コーヒーという商品がどうやらこれから流行りそうだとの情報から計画を立てるのだが様々な妨害が立ちふさがる。


アムステルダムユダヤ人コミュニティの複雑な人間関係が絡み、虚実ないまぜの駆け引きが描かれていく。この人物関係が見事にあちこちで絡み、伏線になっているので読んでいて気を抜けません。またこの17世紀という時代背景を生活に根ざしている部分で丁寧に描いているので歴史ものとしても秀逸。ちょうど資本主義に移行していく時代が活き活きと描かれています。相場取引にはうんくささが付きもの。マネーゲームのいやらしい部分も押さえていてかなり濃密な物語となっています。また主人公の裏にいる人物の手記が平行して描かれており、この表と裏の2重構造が複雑な人間関係を紐解いていくものになっているのも面白い。


この作品、前作『紙の迷宮』での主人公ウィーヴァーの祖父の話である。前作はハードボイルド風味があり、そういう部分では物語にうねりがあり読みやすかったけど今回はそういう部分では地味です。でもその分、歴史ものとして読み応えがあります。