Interview:市川染五郎 「挑戦状」に立ち向かう 「九月花形歌舞伎」で昼夜ともに初役

昼夜ともにきちんと言及してくれたインタビューなのでメモ。

歌舞伎座の「九月花形歌舞伎」で、昼は古典の大作「新薄雪物語」の園部兵衛、夜は新作「陰陽師(おんみょうじ) 滝夜叉(たきやしゃ)姫」の安倍晴明を演じる。尾上松緑尾上菊之助市川海老蔵片岡愛之助中村勘九郎中村七之助ら、年代的にも近い花形世代が集結する、前売りも好調の注目の公演だ。

 「大きなお役をいただき、『できるか』という挑戦状をたたきつけられたようなプレッシャーを感じております。この世代で歌舞伎座を大きくしていくんだ、という責任感を持って取り組みたい」と意欲を見せる。

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 「陰陽師」は夢枕獏の人気小説の初の歌舞伎化。脚本は今井豊茂、演出は齋藤雅文が担当する。

 都で次々と怪異な現象が起きる。調べを進める晴明と源博雅勘九郎)は、20年前に起きた平将門海老蔵)の乱に突き当たる。

 物語は過去と現在を行き来し、将門の遺児滝夜叉姫(菊之助)、反乱に加わった興世王愛之助)、将門を討った俵藤太(松緑)らが登場する。

 「それぞれの人間がきちんと描かれ、悪の道に走った人間も哀愁を感じさせるキャラクターになっています」

 都の高官に陰陽道に基づく助言を与えるのが陰陽師。中でも晴明は、超人的な力を持つ。演出の齋藤には「宇宙の中にひとりいるような、絶対的な孤独感」をまとった人物と説明された。

 「国のトップに指示できる立場なのに、策略を用いない。感情もあらわにはしない。存在感のない存在とでも言えばいいのでしょうか。透明感を出し、染五郎と晴明がリンクできたらと思います」

 過去に映画化、テレビドラマ化もされている。「そのどれも超えるものにできると思ったからやることにしました」と力強い。

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 一方の「新薄雪物語」は人形浄瑠璃を歌舞伎化した義太夫物の古典。幸崎伊賀守(松緑)の娘薄雪姫と園部兵衛の息子左衛門(勘九郎)の恋を発端にした、双方の親を巻き込んだ悲劇だ。兵衛と伊賀守が互いの子を助けるために切腹する「合腹」が見せ場となる。

 「とにかく義太夫を勉強し、気持ちをセリフに乗せる。他人の子を助けるために腹を切るという行動を、どう演技として膨らませることができるか。松嶋屋のおじさん(片岡仁左衛門)に教えていただきます」

花形世代がこれだけ顔をそろえる公演も珍しい。「舞台でどれだけぶつかりあえるか。僕たちは、『みんなで力を合わせてエイエイオー』という世代ではない。それがおもしろいところで、楽しみでもあります」

 昼夜共に初役だ。「これ以上ありえない、大変なことをした方がいいと思っていましたが、『これ以上の以上』なので、びっくりしました。自分の立場をスポーツに例えるなら、レギュラーか辞めるかのどっちか。控えや2軍に居場所はない。立ち向かっていくしかありません」
毎日新聞 2013年08月26日 東京夕刊
http://mainichi.jp/enta/news/20130826dde012200027000c2.html