ネレ・ノイハウス『深い疵』(創元推理文庫)

ロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチス武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488276058)

かなり面白かった!ドイツミステリです。作家はドイツミステリの女王と言われているそうですがそれだけの内容でした。今回初めて邦訳されたのは刑事オリヴァー&ピア・シリーズ第三作目。
一人の高名な老人が殺害された事件を発端に第二次大戦のナチとホロコーストに翻弄されたカルテンゼー一族とその周辺の人々を描きだしていきますが、それが一筋縄ではいかない。傷つけられながら生きてきた人々とその上にあぐらかいて生きて人々と。ナチが絡んだ話なので真相の部分で非常に重い内容ですが緻密に構成された物語運びの上手さと魅力的なキャラクターたちのおかげでぐいぐいと読ませていきます。ミステリとしての部分ではせっかく積み重ねた前半があるのに後半一気に色んな人物を動かすことでそこをすっ飛ばしていってしまうのがもったいない。本格的な推理ものとか警察小説ものという枠から外れる気もしますがまあそこらへんはエンタメ系ということで。小説としての深さとエンタメが非常のバランスが非常に良い作品でした。
出来れば一作目から訳していただきたかったのですがまずはクオリティの高い作品から、ということのようです。元々このシリーズは出版社に相手にされず自費出版で二作目までは細々と地元で売っていたようで、それが評判となり出版社が目をつけたとのこと。『深い疵』だけ読むと相手にしなかった出版社の編集たちの目が無さ過ぎたって感じを受けてしまいます。それほど小説としてもミステリとしても素晴らしい出来。この作家が一般に知られるようになってよかったとしみじみ思います。次の作品が早く読みたいです。

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)