ミネット・ウォルターズ『破壊者』(創元推理文庫)

女は裸で波間にただよっていた。脳裏をよぎるのは、陵辱されたことではなく手指の骨を折られたことだった。──そして小石の浜で遺体が見つかる。被害者は長時間泳いだ末に力尽き、溺死していた。一方、死体発見現場から数キロ離れた港町では三歳になる被害者の娘が保護される。なぜ犯人は母親を殺したのに娘を無傷で解放したのか? なぜ、海を恐れ船に乗らなかった女性が溺死したのか? (東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488187095)

ミネット・ウォルターズ、久しぶりの刊行です。『破壊者』は最近の作品ではなく『囁く谺』と『蛇の形』の間の1998年に発表された作品。相変わらず「事件」から人そのものをあぶりだしていく手腕は見事ですし筆力を感じさせる作品ではありました。様々な人々の証言やメモで多角的に被害者や犯人と目される二人の人物像をあぶりだしていく手法でかなり緻密に書き込んでいっている。しかしそのわりに全体的に散漫で散りばめたエピソードも拾いきれていない感があって物足りなかったです。事件そのものにレイプや児童虐待といったかなり社会的問題がはらんでいるわりにそこが中途半端な取り上げ方になっている…途中で投げ出したかな?感を私は感じてしまった。あぶりだされた「人」たちの輪郭もどうも曖昧。特に犯人。う〜ん、もったいないというかテーマを絞りきれなかったんだろうな。

また事件の本筋と恋愛模様にあたる脇筋の絡ませ方も今回はちょっとバランスが悪い。どちらもキャラが濃すぎて絡ませたのがもったいなかったかも。この作品に関しては「事件」だけを追ってほしかった。とても期待して読んだのですが個人的にこの作品はウォルターズ作品のなかではちょっと落ちる…。

破壊者 (創元推理文庫)

破壊者 (創元推理文庫)