伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』(新潮文庫)

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?(新潮社:http://www.shinchosha.co.jp/book/125021/

世田谷パブリックシアター舞台化するとの情報に興味を持ちさっそく読書。伊坂幸太郎は『陽気なギャングが地球を回す』と『重力ピエロ』を読んでいる。独特の洒落たミステリを書く作家だなという認識と共に根底に「人の悪意」を許したくないという純粋な気持ちがあるんだろうなと感じた。『オーデュボンの祈り』はデビュー作。デビュー作には作家のすべてが含まれるというがまさしく。非現実的な舞台設定でありながらファンタジィーではない世界を描き出す。どこか暖かい手触りのある非現実な世界と現実とが融合している、その絶妙さが見事。「欠けた」ものたちがどう生きているか、生きていくべきか。悪はしかるべき報いを受けてほしいとの切ない「祈り」がそこにある。作者の若さが真っ直ぐに出ている作品でもあるかも。最近の作品も読んでみたくなった。

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)