サラ・ウォーターズ『エアーズ家の没落』上下(創元推理文庫)

かつて隆盛を極めながらも、第二次世界大戦終了後まもない今日では多くのものを失い、広壮なハンドレッズ領主館に閉じこもって暮らすエアーズ家の人々。かねてから彼らと屋敷に憧憬を抱いていたファラデー医師は、往診をきっかけに知遇を得、次第に親交を深めていく。その一方、続発する小さな“異変”が、館を不穏な空気で満たしていき、人々の心に不安を植えつけていく……。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488254070)

一気に読んでしまいました、面白かった!!没落していくハンドレッズ領主館とそこに住まうエアーズ家のどこか変わっていながらも魅力的な人々を緻密に淡々と描き、そのなかで少しづつ不穏な空気を纏い始める様を執拗に描き出す。じわじわと恐怖に犯されていくエアーズ家の人々のとても陰惨で悲惨な物語。ファラデー医師の視点から描かれる物語は「不安感」が付きまとう。いったい何が起きていったのか。明快な答えは提示されず、読者の読み方によって違う側面が見えてくる小説です。
ゴシックもの、館ものが好きなら必読でしょう。『レベッカ』『ねじの回転』『ずっとお城で暮らしてる』などを連想させました。解説ではキング作品にも影響されているのではと書かれていましたが『シャイニング』など手法として下地にあるかもしれません。個人的にはこの作品からキング作品を連想させなかったのですが。雰囲気がだいぶ違います。とりあえずミステリ好きにもホラー好き、どちらにもオススメしたいです。サラ・ウォーターズは小説を描くのが巧いと思う。特に今回の作品は人物造詣の巧みさ、物語描写の巧さが際立っていると思う。

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)