ボストン・テラン『音もなく少女は』(文春文庫)

貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。(文藝春秋http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167705879)

胸にどっしりきました。淡々と描いているのだけどだからこそ凄みが出てるというか。写真がキーとして色んな場面で出てくるのだけど、そのなかで評される「リアル」さと同様のものがこの小説に切り取られている。解説にあった「男の力を借りずに私たちは生きていくと宣言する女性たちの物語」はちょっと違うと思うな。この解説はとっても男性目線だよね。これって、借りずに生きる宣言がカッコイイという視点じゃない?でも本来そうであってはいけないのだから。そこも汲み取らないと。
女性が主人公だけど、強さ、弱さの、生きていくうえの矛盾は男女どちらともに描かれている。どちらも押しつぶされている。そこに暴力が生まれ、さらに弱きものへ向かう。その負のサイクルに飲み込まれそうな運命に抗うことができた女たちの物語だ。しかし、その勇気は罪をも生む。運命から逃れるために罪を背おわなければいけなかった彼女たちの行動を「宣言」なんて言葉で括るのに違和感。そこまでしないと逃れられなかった、というのは悲惨なことなんだよと思う。だからこそイブは告白しなければならなかったのだと思う。立ち向かう困難さをとことん描き、なおかつ女たちを冷徹にしかし優しく描いた作品。ボストン・テランって男性だよね?

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)