トマス・H・クック『沼地の記憶』(文春文庫)

教え子エディが悪名高き殺人犯の息子だと知ったとき、悲劇の種はまかれたのだ。若き高校教師だった私はエディとともに、問題の殺人を調査しはじめた。それが痛ましい悲劇をもたらすとは夢にも思わずに。(文春文庫:http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784167705855

記憶シリーズと名付けられた4作品で日本では有名になった作家です。私は記憶シリーズ以前から好きで読んでいましたが、ほとんどの作品が現在と過去を交互に描きつつ過去の事件を追っていくという作品構造パターンなので、読めば面白いんですが少々飽きがきてしまいここ数年手に取っておりませんでした。しかし、今作品の評判が非常に良いので久々に読んでみました。結果、やっぱりクックは面白いし上手い。『沼地の記憶』もいつもの現在と過去をカットバックしていく手法。主人公の心理描写を丁寧に描き出すことで物語を進めていく。
今は引退して一人屋敷に住む名家出身の元高校教師の老人ジャック・ブランチが悲劇的な事件が起きた過去を振り返る。ジャックは高校で「悪」について教えている。そのなかでオドオドと目立たない教え子の父親が殺人犯だったことを知り、父親についてレポートを書くことをアドバイスするのだが…。主人公の心理を細かく描くことで「悪」「闇」はどこにでも潜んでいる、ということをあぶり出していく。またその過程で低所得者層の子供達がなかなかそこから抜け出せない現実と、裕福層の自己欺瞞などが提示される。真相の救いのなさがやるせない物語。

沼地の記憶 (文春文庫)

沼地の記憶 (文春文庫)