パトリシア・A・マキリップ『バジリスクの魔法の歌』(創元推理文庫)

焼きつくされ、破壊されたトルマリン宮。無惨な死者のあいだにひとり生き延びた幼子は、容赦ない探索を逃れ、身内の手で辺境の詩人学校にあずけられた。月日は過ぎ、都ではグリフィンことトルマリン家を滅ぼした、バジリスクの家が権勢をふるっていた。水面下で反撃の隙をうかがうトルマリンの残党。一方、辺境の詩人学校にグリフィンを名乗る若者が現れたことから、運命の歯車は大きく回りはじめる。名手が奏でる幻想と復讐の物語。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488520113

マキリップ独特の詩的で装飾的な二重の意味を含む文体が顕著で読むのに時間が掛かりました。また物語が進むのがかなりゆったりでその流れに慣れるまでがちょっと大変だった。相変わらず重層的なイメージでの物語は面白い。やっぱりマキリップの物語が好き。しかし今作はマキリップにしては全体の構成が甘く、しかも複線がほとんど見当たらないままの結末がいきなりすぎてちょっと消化不良。キャラクター造詣は魅力的だし、マキリップお得意の言葉と音楽が魔法の力を持つという主題もやはり魅力的だし、血なまぐさい抗争の復讐譚という題材も良い。パーツのひとつひとつはかなり緻密で美しいのに組み立てたらどこか輪郭がハッキリしないという感じかなあ。マキリップファンじゃないとこの物語構成は読みきれないかも。もう少し丁寧に描き込んでほしかったな。主人公のルックの側だけでなくぺリロール家側、とくにルナをもう少し描き込んでくれたら傑作になったんじゃないかと思う。
原題は『SONG FOR THE BASILISK』で、『バジリスクへの魔法の歌』のほうがしっくり来るかな。とりあえず私好みの物語ではありました。

バジリスクの魔法の歌 (創元推理文庫)

バジリスクの魔法の歌 (創元推理文庫)