P・D・ジェイムズ『秘密』(ハヤカワポケットミステリ)

ジャーナリストのローダが長年放置してきた顔の傷痕を消す決意をしたのは、母親の再婚がきっかけだったのかもしれない。高名な形成外科医を訪ねた彼女は、医師の所有する荘園に滞在して手術を受けることになる。庭には古代のストーンサークルがあり、そこでかつて魔女が処刑されたという伝説が残っていた。手術の夜、そのストーンサークルに不審な光が……そして翌朝、ローダはベッドで扼殺死体となっていた。ダルグリッシュ率いる特捜チームが現場に急行するが、事件の影にはさまざまな秘密が!(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211833.html) 

今年、米寿を迎えるP・D・ジェイムズの新刊です。この作品は2年前に本国で刊行されたので88歳の時の作品。前作『灯台』でそろそろ次回作は無理かな?と思っていたので新作が読めて嬉しい。このところのP・D・ジェイムズの作品はさすがに全盛期の作品に比べるとだいぶシンプルになり構成も若干甘めにはなっていますが、それでもかなり読み応えのある物語であることは確か。前作『灯台』でも思いましたがアガサ・クリスティからの英国ミステリの系譜ということを改めて感じる作品。そういう部分で原点回帰している感もありつつ、P・D・ジェイムズらしい重厚さや緻密な心理描写、皮肉に満ちた人物造詣は健在。年齢を得て人に対する視点は前よりも暖かく、どこかしらに「救い」を描いている。人が生きていくためには「信頼と愛」が必要と…。次回作もぜひ読みたいです。

秘密〔ハヤカワ・ミステリ1833〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

秘密〔ハヤカワ・ミステリ1833〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)