ベンジャミン・ブラック『ダブリンで死んだ娘』(ランダムハウス講談社)

<聖家族病院>の病理医クワークは死体安置室の遺体にふと目を止めた。救急車で運び込まれたクリスティーンという名の美しい女性で、死因は肺塞栓。明らかに出産直後と見える若い女性が肺塞栓とは?死亡診断書を書いた義兄の産婦人科医マルの行動に不審を抱いたクワークは再び安置室を訪れる。だが、遺体はすでに運びだされていた!1950年代のダブリンを舞台に、ブッカー賞作家が別名義でミステリに初挑戦した話題作。(ランダムハウス講談社:http://www.randomhouse-kodansha.co.jp/books/details.php?id=747)

2005年『海に帰る日』でブッカー賞を受賞したアイルランドの作家ジョン・バンヴィルが別名義で書いたミステリ。私はこの作家は読んだことありません。お初でいきなり別名義のミステリを読んでいいのか?という疑問は若干ありつつ、「1950年代のダブリンを舞台」というところに惹かれて購入。その後、mauさん感想を読んで購入していたのを忘れ、再度ポチしてしまいダブリ本にしてしまったことは内緒だ(笑)

病理科医長クワークが若い女性クリスティーンの遺体に目をとめ、義兄の産婦人科医マルが死亡診断書を偽って書いたのでないかとの疑念を抱き、真相を探っていこうとするが、その過程でクリスティーンの面倒を見ていた女性が殺されてしまい、自身も脅されるようになる…。

といかにもミステリの筋立てですがいわゆる「ミステリ」としては弱いです。筋立てがあまりに「いかにも」なので「謎解き」に意外性を感じませんし、ミステリ部分では鮮やかさが残念ながらありません。どちらかというとミステリの体裁を取った、複雑な家族模様の物語として捉えるといいかもしれません。淡々と描かれる人間模様にはヒリヒリとした痛みが伴っています。特に労働者階級の若い夫婦の関係の描写には容赦がない。また1950年代のアイルランドの社会に密接なカトリック教の保守的になりすぎたゆえの歪みの部分が背景にある。この部分がもっと緻密に描かれていればもっと読み応えがあったような気がしますが、作家にとってはあまりに身近なので「判っていること」として描いてしまったのかもしれませんね。

たぶん、この本を読むうえでアイルランドの社会背景、宗教背景をある程度知っておかないと理解しきれないかなあと思います。mauさんも紹介していましたが『マグダレンの祈り』が理解の助けに確実になると思います。

ダブリンで死んだ娘 (ランダムハウス講談社文庫 フ 10-1)

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マグダレンの祈り [DVD]

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