デイビィッド・アーモンド『肩胛骨は翼のなごり』(創元推理文庫F)

引っ越してきたばかりの家。古びたガレージの暗い陰で、ぼくは彼をみつけた。ほこりまみれでやせおとろえ、髪や肩にはアオバエの死骸が散らばっている。アスピリンやテイクアウトの中華料理、虫の死骸を食べ、ブラウンエールを飲む。誰も知らない不可思議な存在。彼はいったい何?(創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3949)

カーネギー賞ウィットブレッド賞受賞作品。主人公のマイケルは人ではない不思議な生き物「彼、スケルグ」と出会う。マイケルは隣に住むちょっと変わった女の子ミナと共に彼を助けることとなる。不思議な存在を軽々と認める少年少女の柔軟な精神をとても魅力的に描く。

主人公マイケルは心臓を患っている赤ちゃんの妹がいる。まだ名前すらない妹の生死への不安を抱える家族のなかでマイケルもまた精神的に不安定。ただひたすら妹を思う純粋な気持ちはスケルグを助けることがどこかで「命」を繋ぐ行為へと結びついていくかのよう。ファンタジィではあるけど、少年少女たちの気持ちの在り様はとてもリアルだ。子供の突拍子もない感覚と信じることの強さ、それをまだ私は覚えている。だからとても共感する。

そして翼を持つ人、スケルグの描写の容赦のなさが良い。表紙の人形とは似ても似つかない(笑)汚さぶり。リューマチを患い、皺だらけの顔、そして腐ったような息を吐き、餌の小動物を丸呑みする習性を持つ。「きみみたいな、獣みたいな、鳥みたいな、天使みたいな、なにか」。美しくないスケルグだけどそれでも彼が立ち直る過程にはどこか「命」の美しさが見える。やっぱ天使だったのかな?

淡々と情景を描写するなかのリアルさが見事だ。このタイプの作品は感動的に盛り上げようと描きそうなものだがそれがいっさいない。そこに妙なリアルさが生まれ、しみじみとした余韻を残す。

肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)

肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)