ベルンハルト・シュリンク『帰郷者』(新潮クレスト・ブックス)

母子家庭で育ったペーターは、祖父母の家で古ぼけた小説を見つける。やがて、失われたページを探すうちに思いがけず明らかになる、父の行方、そしてナチスにまつわる過去――。戦争に翻弄された人々の、罪と償い。運命の波間に生まれた、いくつかの愛の形。(新潮社:http://www.shinchosha.co.jp/book/590072/)

図書館からの借り本。ベルンハルト・シュリンクは『朗読者』『ゼルプの裁き』『ゼルプの欺瞞』を読んでいてわりと好きな作家。それで期待して読んだ。でも、『帰郷者』は上手い小説だし面白いといえば面白い小説とは言えるんだけど、好みじゃないかなあ。
タイトルそのままの帰郷者の物語。戦争から帰郷する帰還兵の運命を叙事詩オデュッセイア』になぞらえた物語を包括し主人ペーターの人生を描く。上記に転載したあらすじの「罪と償い」の「償い」はこの小説に無いように思う。少なくとも私には読み取れなかった。前半部分のペーターの祖父母の家で過ごす夏休みの描写は素敵だ。また、自分の生い立ちが第二次大戦中のドイツとスイスの立場に密接に絡む、という部分も面白い。だけど後半にいくにつれ、戦争や人の善悪に関する思索に入ってしまうところで、どうにも入り込めない。叙事詩オデュッセイア』を読んだことがないので基礎知識が足りないせいもあるが…。
またペーターが祖父母の家で見つけた帰還兵の小説の断片は、それほど面白くない、というか続きを読みたいと思わせるほどの吸引力がないような気がする。この小説部分がもっと魅力的だったらな、と思う。そしてこの小説から得た真実を問いに出かけていく終盤が、さほど面白いと思えず。またナチスという問題(人の悪の定義への問題でもあるのかな)への告発になっているとも思えず。まあ結局は実際問題、ああいう存在は認められているという現実があるのだろうけど、小説のなかくらいしっかり告発してほしいと思ってしまうのよね。主人公がもうダメすぎ。でもってド・バウワーには醜悪さを感じる。

帰郷者 (新潮クレスト・ブックス)

帰郷者 (新潮クレスト・ブックス)