ゴードン・スティーブンス『カーラのゲーム』上下(創元推理文庫M)

ルフトハンザ機がテロリストにハイジャックされた。人質救出のためヒースロー空港に待機するSAS隊員フィンの胸をよぎる疑念――リーダーは彼女だ。死んだはずなのに。しかし――。1994年冬、内戦のボスニアで、彼と一人の女を結んだ運命の交錯が、いま新たな戦いの火蓋を切る!(創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?isbn=4-488-80133-1)

この本はだいぶ昔に「冒険小説の傑作」と言われ、買っておいて積読になっていたもの。なぜかなかなか手が伸びなかったのだ。なぜ早く読まなかったんだよ、私…。今が私にとっての読み時だったということだろうか。読み逃さないでよかった。冒頭いきなりハイジャックの事件から始まりますが、そこへ至る過程にボスニアヘルツェゴビナ内戦が深く関わっていたという話です。現在と過去をフラッシュバックさせていく三部構成。第一章なんて読むのがしんどいくらいリアルです。映画『ウェルカムツゥ・サラエボ』を前に観ていたこともあり、情景が映像として浮かんできてしまいます。「現実にあったこと」という事でまずもう辛いです。戦争という政治のパワーゲームに翻弄される市民たち。紛争のなか極限状態から家族を失い生き延びた一人の女性が取った行動、その意味とは。「見て、聞いて、そして考えよ。」と突きつけられた感じ。冒険小説という枠を超えています。心に重いものがずしんと来ます。ラストはいくら「物語」でもありえない結末ですがどうしてもここに落としたかったのでしょう。甘いかもしれませんが、私は良しとしたいです。これはぜひとも色んな方に読んでもらいたい。戦争というものが何か、それを目の当たりのした時に「人」としてどう生きていくか、そんな問いがある。

カーラのゲーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

カーラのゲーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

カーラのゲーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)

カーラのゲーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)