中井英夫『虚無への供物』(講談社文庫)
だいぶ前にどこかで「アンチミステリの傑作」と聞いていて気になっていた本。古本屋で半額だったので手に取りました。新装版の前の版の文庫で表紙の絵がユニーク。
この本もっと早く読めばよかったなあ。少なくとも本格ミステリにハマってた学生時代に読んだらたぶん、素直に面白がったような気がする。でも、もうすっかりスレたミステリファンとしては「アンチミステリ」としても「ミステリ」としても驚きがないというか、中途半端な感じがしてしまう。バカミスとして面白がるにはマジメすぎるしねえ。推理合戦から後半への真相への流れは、技巧的でかなり上手いと思うんだけど。でも、それがどうした、と若干引き気味になるし、イライラする。なんだか面白がれないのよね。
死体を前にしてそれを推理ゲームとして楽しんじゃう、という不謹慎さをわざわざ感じさせる作りというところがアンチミステリなんだろうけど、アンチになりきれてないように感じる。皮肉さがないというか。「現実のどうしようもない死」があるのに「ミステリ小説のなかの虚構のなかの死」を楽しむ読者がいる、というところでの告発ともいえるけど、告発になりきれてないというか。小説家としてのジレンマがそこにない。結局、探偵小説の解説、で終わってるというか。だからミステリ(アンチミステリ)小説として楽しめない。実はそれが狙いだったりするのかな?
ただ、ミステリうんぬん別とするところで面白かったです。1964年の作品なのですが当時の風俗描写がかなり面白いです。登場人物にゲイがいっぱい出てくるんだけど、ちょうど日陰から少しばかり日向に出てこれた時代、という部分が感じられて、そういう距離感覚のところのキャラ設定がなかなかいい感じに効いている。個人的に知ってる地名が出てくるのも、嬉しい。
旧版
- 作者: 中井英夫
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- 作者: 中井英夫
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