ポール・ドハティー『神の家の災い』(創元推理文庫)

摂政ジョン・オブ・ゴーントの宴に招かれたクランストン検死官は、四人もの人間を殺した〈緋色の部屋〉の謎を解くはめになる。一方、アセルスタン修道士の守る教会では、改修中に発見された人骨が、傷を癒やす奇跡を起こしたと大評判をとっていた。さらに、かつてアセルスタンが籍を置いた修道院で、神をも恐れぬ修道士連続殺人が発生する……。いずれも手ごわい3つの謎に、さしもの名コンビも苦戦する、中世英国ミステリ第3弾。(東京創元社http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3915)

検死官クランストン卿とアセルスタン修道士のシリーズ第3弾です。前作『赤き死の訪れ』から2年後、アセルスタンは聖アーコンウォルド教会での日々に忙しく、クランストン卿は双子の父親になってからも相変わらず大酒飲みで大食漢。そんな二人に3つの謎が突きつけられた今作。いったいどうやって解決していくのか。いつものごとくアセルスタンが事件の骨格を掴み、クランストンが最後の詰めで活躍というパターンですが、この正反対なコンビのバランスがよくて面白いです。3つの謎はそれぞれ独立した事件となっています。短い期間に解決しなければならない二人はいつにもまして目まぐるしく頭を働かせ動き回る羽目に陥っていくのですがその切羽詰った雰囲気が物語の吸引力になっている。3つの謎のなかではやはり一番の大きな事件の修道士連続殺人が密に出来ていて、この事件を核に持ってきたところがポール・ドハティーの上手いところ。後半、一気呵成に3つの謎が解かれていく様は見事。また歴史ミステリとして14世紀末のイギリスの描写が見事です。特に風俗の描写の細かさには感嘆します。下町の描写からは臭気が漂ってくるかのよう。また上流社会での書き込みも怠りません。豪奢な生活の裏の権力争いが今後どうなっていくのか、その興味も引っ張っていきます。幼い国王が無邪気なだけではない不穏さを見せてきますしね…。次回作も楽しみです。

神の家の災い (創元推理文庫)

神の家の災い (創元推理文庫)