ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫)

奇妙な噂がささやかれる映画館で隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥き、血まみれになった“あの女”だった。4年前『オズの魔法使い』上映中に19歳の少女を襲った出来事とは!?(『二十世紀の幽霊』)。そのほか、ある朝突然昆虫に変身する『蝗(いなご)の歌をきくがよい』、ダンボールでつくられた精密な要塞に迷い込む怪異を描く『自発的入院』など……。デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の3冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。

16作品(序文を入れると17作品)からなるジョー・ヒルの短編集。好き、嫌いもありますし、すべてが良いとは言いませんがかなりレベルの高い短編集でした。内容はホラー、幻想、マジック・リアリズム、普通小説と言ってもいいようなものと多岐に渡っています。全体の印象を言えば『トワイライトゾーン』シリーズを見たような感覚。あらゆるジャンルを包括して、どこかずれた空気をまとう境界線の物語。いわゆる異色作家と言われた作家の流れを汲む作家と言っていいでしょう。ジョー・ヒル本人がロアルド・ダール、ジャック・フィニィの影響を受けているとあとがきに触れていますし、この短編集のなかにもオマージュ作品がいくつかあります。また幻想方面だけではなくホラーへの愛もたっぷりあります。その幅の広さがこの作家の強みかもしれません。
ジョー・ヒルはあのスティーブン・キングの息子さん。同じジャンルの小説家になるなんて色んな部分で大変でしょうね、と思いますがこの短編集に限っていえば父親に負けていませんね。物語を捉える方向性が似てるようで微妙に違います。
私が気に入った作品は映画愛に満ちた作品『20世紀の幽霊』、若年性の統合失調症で要塞作りが得意な弟モリスについて語る『自発的入院』。そしてマジック・リアリズム『ポップ・アート』の切なくも優しい物語、この作品は傑作!というか大好きです。

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)