恩田陸『ユージニア』(角川文庫)

あの夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに街を滅ぼした。旧家で起きた、大量毒殺事件。未解決となったあの事件、真相はいったいどこにあったのだろうか。数々の証言で浮かび上がる、犯人の像は−−。(角川書店http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200711000367

恩田陸はやっぱり恩田陸だった(笑)第59回日本推理作家協会賞受賞作です。なのでつい理に落ちる結末を期待してしまいましたが、肝心な部分をはぐらかされてしまいました。うそお、ここまで物語構築しておいてそこで終わらせるの?とモヤモヤが残る読後感。それでもその曖昧さが恩田陸らしいのだと思えば、この作品においては納得いく。所詮人の気持ちは理解できない、というテーマと呼応しているし、その切なさもある。ただ、それでも物語として綺麗に昇華されているとは言えないかなあ。複線が足りない。もう少し緻密な複線があってどうにでも解釈できる余地を与えてくれたら、そのラストでも私は「傑作」と呼んだだろう。もうひとつピースが足りない。ただ面白い小説には違いない。読んでいる最中は夢中になって読んだ。微妙にずらしていく構成も面白いし、美しくどこか毒々しい情景描写や蒸し暑い夏の空気感など相変らず雰囲気創りも上手い。

ユージニア (角川文庫)

ユージニア (角川文庫)