ブライアン・マギロウェイ『国境の少女』(ハヤカワHM文庫)

アイルランドの北と南の国境線上に投げ出されていた少女の死体の謎に、刑事ベンが挑む。(早川書房http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/435001.html

主人公はアイルランド共和国のベン・デブリン警部。彼の視点から、複雑になっていく事件と自分を取り巻く状況を一人称と三人称をmixした語り口で描いていきます。少しばかりハードボイルド風味があるのですが、これは作者がイアン・ランキンが好きでランキンの語り口にリスペクトされて書いた小説だから、というところにあるようです。


アイルランドを分断する北アイルランドアイルランド共和国(南側)の国境線上に投げ出された死体、というところに象徴されるようにアイルランドの複雑な社会状況が事件の根底ある警察小説。また単純に国境という意味でなく様々な意味での「ボーダーライン」ということも示しているのではいかと思います。現代社会の歪みがもたらす問題が提示されていきます。原題は『BORDERLANDS』。一人の少女の死が単なる単独の事件ではなくなっていくにつれ、切なくやりきれない物語になっていきます。これはぜひミステリ好きの方々には読んでもらいたい小説のひとつです。シリーズ化されているようなので是非、続編も翻訳してもらいたいです。

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

国境の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)